ホワイトさんの祈り

 

 ホワイトさんは不思議に思っていました。
 三日前にジェニファーさんあての小包を届けにきたのですが、ジェニファーさんはお留守でした。郵便受けに入らないので、再配達するか、大家さんに預けるか、どちらにしようかと考えて、出直すことにしました。せっかくだからジェニファーさんに直接手渡ししたかったのです。
 でも、次の日も、その次の日も留守でした。小包以外の郵便物を郵便受けに入れようとすると、前々日にホワイトさんが入れたものが、そのまま残っていました。今まで、二日に一度はジェニファーさんに会えたのに、どうしたのかな、出張か旅行かな。今日行っても留守だったら、もうあきらめて大家さんに預けよう、と思いながら、ホワイトさんは配達に行きました。
 アパートの前を通るとき、窓に明かりが見えました。ああ、今日は家にいるんだ、よかった、と喜びながらドアをノックしました。
 ドアを開けたのは、知らない女の人でした。ホワイトさんはびっくりしました。
「はい、どなた?」
「あ、あの、小包の配達ですが……ええと、ジェニファーさんのご家族のかたですか?」
 ホワイトさんが尋ねると、黒い瞳の優しそうな女の人は、首を振りました。
「いえ、私は仕事の同僚というか、友達というか……」
「あ、じゃ警察のかたですか。ジェニファーさんはいらっしゃいますか? ここ数日お留守のようでしたが」
「ええ、その……じつは彼女、けがして入院してるんですよ」
「えっ! けがって……大けがですか? 大丈夫なんですか?」
 ホワイトさんは、思わず大声を上げてしまいました。
「命に別状はないけど、ちょっとかかりそうね……。私、頼まれて着替えや日用品を取りに来たんです」
「……そうですか……」
「ええ。ジェニファーもここに来てまだ半年も経ってないのに、災難だったわ」
 ホワイトさんは、とても心配になりました。この女の人の話しぶりや表情からすると、軽いけがではなさそうです。それでも、命に別状はないというのはよかったけれど。
「どうぞお大事にとお伝えください。それじゃ……配達はどうしましょうか。入院が長引くようなら、病院に届けることもできますが」
「とりあえず、それはお預かりしていっていいですか? 今後の配達については、きょう行ったら聞いてみますね。ええと、あなた、お名前は……」
「ホワイトといいます」
「ああ! やっぱり。親切な郵便配達の人がいるって話はジェニファーに聞いてたけど」
「そ、そうですか」
 ホワイトさんは、ちょっと照れてしまいました。
「ジェニファーは、けがはしてるけど、そこそこ元気ですから。そんなに心配しないでくださいね、ホワイトさん」
「あ、はい……それじゃ、失礼します」
 ホワイトさんは、女の人に小包を渡し、アパートをあとにしました。ジェニファーさんがはやく元気になって戻ってきてくれますように、と祈りながら。


 翌日、レイニーアパートに配達に行ったホワイトさんは、大家さんから声をかけられました。大家さんは、ジェニファーさんの入院のことをホワイトさんに話し忘れていたことを詫び、しばらくのあいだ、郵便物は病院まで届けてほしいというジェニファーさんの希望を伝えてくれました。
 警察病院も、ホワイトさんの配達担当地域の中でした。その次の日、ホワイトさんは病院の受付に行き、ジェニファーさんあての手紙や小包を含め、病院への大量の郵便物を渡しました。ジェニファーさんの容体を教えてもらおうと思いましたが、受付の女性には詳しいことはわからないようでした。
 ちょっと残念に思いながら、ホワイトさんは病院をあとにしました。
 そのわずか一、二分後のことです。黒い瞳の女の人が、受付に来ました。受付の人と少し話をして、行こうとすると、受付の人が言いました。
「ああ、ちょっと待ってくださいメリッサさん。たったいま、郵便配達の人が来て……ジェニファーさんあてのお見舞いの花もあったみたいだから」
 受付の人は、郵便物の中からジェニファーさんあてのものを引っぱり出し、花といっしょに女の人に渡しました。
「まだ仕分けが終わってないので、もしかしたらまだあとから出てくるかもしれませんが、とりあえずこれだけ」
「ありがとうございます。まあきれい、誰からかしら。……ホワイトさん? ジェニファー、きっと喜ぶわね」
 メリッサさんはにこにこしながら、花と郵便物を抱え、階段をのぼっていきました。

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