サリーの思いつき
「ふ〜むぅ……」
頭をひねるサリー。そのサリーに、通りすがったネルソンおじいさんが聞きます。
「どうしたんじゃ、サリーちゃん?」
「思うんですけどぉ、私も新しい活躍の場を持つべきだと思うんですよねぇ」
「新しい活躍の場とな?」
ネルソンおじいさんが聞き返すと、サリーは頷きました。
「そうですぅ。……そうだ!」
ぽん、とサリーが手を叩きました。何か思いついたようです。
「ネルソンの天使たちというのはどうですかぁ?」
「ネルソンの天使たちとな?」
「そうですぅ! おじいちゃんの指令によって私と仲間たちが悪人をやっつけるんですぅ!」
おやおや、サリーはまた何かに影響されているようです。
「しかしのぅ、サリーちゃん」
「はい?」
「仲間”たち”と言うが、他におらんじゃろう?」
ネルソンおじいさんの言葉に、サリーはががーん、とショックを受けました。背景には雷が走ります。
「迂闊でしたぁ……やっぱり、探偵一筋でいきますぅ」
とぼとぼと肩を落として去って行くサリー。その背を見送りながら、ネルソンおじいさんはほっほっほ、と笑います。
「ほっほっほ。サリーちゃんは今でも充分にワシらの天使じゃよ」
ネルソンおじいさんはほっほっほ、と幸せそうに笑いながら帰っていきました。
〜おしまい〜
バ ケ ツ
「テムズさん、勝負ですぅ!」
中略。
「今度こそ勝たせてもらいますぅ!」
客室のある2階を掃除していたテムズに、サリーが再び挑んできました。
「また? しつこいわねぇ」
「ふっふっふ。これを見ても同じことが言えますかぁ?」
サリーの手には一冊の本があります。『へそくりのススメ』。
「そ、それはあたしのへそくり用の本! どうしてそれを!」
「ふっふっふ。これの中身がモウモウ亭のお肉に変えられたくなければ追いかけてくることですぅ!」
サリーがニタリ、と笑います。なんか悪役の笑みです。
「ホワァー!」
「ま、待ちなさい、サリー!」
奇声をあげながら階段を駆け下りるサリーをテムズが追いかけます。
一段飛ばし、二段飛ばし、三段飛ばし――
翔ぶように駆け下りるテムズが、下の階に降り立とうとしたときです。何かが差し出されました。
ガラガッシャン!
テムズが勢いよく転びました。その原因を見るため、足のほうに目を向けると――
バケツです。テムズの足はバケツにはまっていました。
「ふっふっふ。これこそ、とある探偵がたしなんでいたと言う武術”バケツ”ですぅ。ホワァー!」
テムズの傍に来たサリーが、なにやら不可解な構えを取りながら勝ち誇りました。最後にはまた奇声をあげています。
がしぃっ!
「へ?」
サリーは足元を見ました。足首を手が掴んでいます。もちろん、その手の主は――
「覚悟は、いいわね?」
K.O. !!
WINNER IS THEMZ !!
テムズ○ (バケツヘルドライバー 00:03:27) ●サリー
〜おしまい〜
俺俺詐欺
「久しぶり! 俺だよ、俺!」
道を歩くサリーに、一人の青年が声をかけてきました。
「はい?」
サリーは青年を見ましたが、どう見ても知らない人です。そのはずです。
「うわ、久しぶりだからって忘れたのかよ、酷いなぁ。まあ、仕方ないよな、なにせ久しぶりなんだし」
「は、えー、その、そうですねぇ」
やけに親しげな青年に、サリーは自分が度忘れしているような気がしました。そういえば、見たことがあるような気もします。ほら、助手志願者とかそういった人として。
「ところで、今ちょっと金に困っ―――」
「さっそく捜査開始ですぅ!」
「――って……へ?」
びしぃ! と道の先を指すサリーに、今度は青年が間の抜けた声を出しました。
「大丈夫ですぅ! この名探偵たるサリーにお任せですぅ!」
ずんずんと歩いていくサリーでしたが、気がつくと青年はもう居ません。
「ふむぅ。これが神隠しと言うものですねぇ! 謎からやってくるとは、さすがは名探偵ですぅ! さぁ、この謎も解決しますよぉ!」
意気込みを新たにしてサリーはずんずん進みます。彼女の頭上は今日も晴れていました。
〜おしまい〜
さとりっくす
「ウェッソン!」
「ん? どうした、サリー?」
サリーに呼ばれ、ウェッソンはグラスを磨いていた手を休めました。
「撃ってくださぃ」
「は?」
「ぶぅわ〜っ! と、かわしますからぁ、銃で私を撃ってくださぃ」
両手を広げてぶぅわ〜っ! を表現するサリーを見て、ウェッソンはサリーがまた何かに影響を受けているのだろうと思いました。
「駄目だ」
「どうしてですかぁ?」
「無理だからだ」
「無理じゃないですぅ」
「無理だ」
「大丈夫ですぅ」
「無理」
取り付く島のないウェッソンの対応に、サリーは「む〜」と頬を膨らませました。
「ふぅん。じゃあ、他の誰かに撃ってもらうからウェッソンには頼みませぇん」
「――な、おい、ちょっと待て」
そう言って背を向けたサリーを、ウェッソンは慌ててとめました。通りすがりの気さくなガンマニアなんかが本当に撃つとも限りません。
「わかった。じゃあ、こうしよう。銃だと万が一があるといけないから、代わりに石を投げる。どうだ?」
ウェッソンの提案に、サリーは少し悩んだ素振りを見せましたが、結局頷きました。
二人は庭に出ます。
「いいか、一回だけだからな?」
「どーんと来いですぅ」
ウェッソンは石を投げました。腕の動きはゆっくり下から上へ。
石は放物線を描いて、ウェッソンの計算どおりにサリーの背後を目指します。
「のひょあ〜!」
ウェッソンが投げて一拍の後、サリーは奇声を上げながら仰け反りました。
・・・・・・・・・・・・ごん。
「あ」
ウェッソンが呆然と見送る中、石は見事なまでにサリーの額に直撃です。
「う」
「う?」
「うわぁぁぁぁぁぁぁん! イタイですぅぅぅぅぅ!」
見事な泣きっぷりを披露するサリーとその行動に呆然とするウェッソン。
もちろん、その後にはテムズの折檻がありました。
〜おしまい〜
機械仕掛けの円卓
一日、街を走り回ったサリーがフロンティア・パブに帰ってきました。
「ふぅ、今日も疲れたですぅ」
「ふぅ、今日も疲れたですぅって、言われても困るんですけど」
「はぇっ!?」
「はぇっ!? って、言われても困るんですけど」
「て、テムズさん?」
「て、テムズさん? って、言われても困るんですけど」
「て、テムズさんが変ですぅ!?」
「て、テムズさんが変ですぅ!? って、言われても困るんですけど」
サリーは混乱してしまいました。あらぬ方向を見て、困っている様子も見えないのにサリーの言葉を繰り返して「困るんですけど」しか言わない――あからさまに様子が変です。
「サリー? どうしたの?」
「サリー? どうしたの? って、言われても困るんですけど」
サリーが頭を抱えていると、奥からテムズがでてきました。そのテムズの呼びかけをテムズが「困るんですけど」付きで繰り返します。
「あっ、テムズさぁん。テムズさんの様子が変ですぅ……って、あれ?」
「あっ、テムズさぁん。テムズさんの様子が変ですぅ……って、あれ? って、言われても困るんですけど」
テムズはサリーの言葉を「困るんですけど」付きで繰り返すテムズを見ました。そしておもむろに手を振り上げ、チョップを入れます。
びしぃっ!
首筋斜め四十五度に一撃入ると、チョップを入れられたテムズは口からぷしゅぅぅぅぅ、と煙を吐き出しました。
「あちゃあ、やっぱり壊れてたみたいね」
「ア、アチャ、アチャア、ヤ、ヤッパ、コワ、コワレ、コマル、コマ、コマル、デスケ……」
「て、テムズさんがテムズさんを壊しちゃったですぅ!」
わたわたするサリーに、テムズ@まともな方はサリーにもぺちり、とチョップをくれました。
「落ち着きなさい、サリー。これは私じゃないわ」
「え? へ?」
「接客を代行させるためにブレイムスさんが作ってくれた『テムズ風接客専用自動人形T型改』略して『テムジン・タイプTカスタム』。愛称は『1号改』よっ!」
「ほへぇぇぇぇ!?」
サリーは驚きの余り奇声を発してしまいました。なるほど、注意して見れば目が空洞で奥の方でなんとなく物騒な光がチカチカしている所や、目のところを通過するように顔に縦のラインが2本入っている所や、口が四角い所など巧妙な作りながらも本物にはない要素が隠されていました。
「とは言え、壊れてるみたいだからブレイムスさんのところに持っていかなきゃ――2号!」
テムズがパチン、と指を鳴らすと壁がグァー、と開き、そこからテムズが出て来ました。ですが、サリーの探偵眼はそれもロボットであることを見抜きます。
「なにせ名探偵ですからぁ!」
「え? 何、どうかしたの? 突然」
「こっちの話ですぅ」
「そう? それじゃあ、1号改をブレイムスさんの所に持って行くから、2号といっしょに店番お願いね」
テムズはそう言うと1号改を引きずりながら店を出て行きました。サリーはそれをお見送りです。
「いってらっしゃいですぅ〜」
「いってらっしゃいですぅ〜って言われても困るんですけど」
〜おしまい〜
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